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4月5日

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ルーズリーフよりも画用紙のほうが好きで、本屋よりも文具屋の方が好きだ。盛岡でいちばん好きな文具屋に立ち寄って水色のかわいい指サックを買った。1日に400枚前後の紙を手繰るので、ハンドクリームが必需品になってしまった。

 

紙に名前をつけているのは誰なんだろう。この前銀座でラブリーが連れて行ってくれたビル丸ごとの文具店にもいろんな種類の紙があって、それぞれにきちんと名前があった。シンプルな便箋売り場のそれぞれの小さな箱にもきちんと名前がつけられている。波光。もし手触りのいい紙に名前をつけてもいいよと言われたらわたしもこういう名付け方をしてしまうと思う。波のひかりは白い。

 

 

労働がたのしい。労働が楽しくて本当によかったと思う。部署内を歌うように回って回覧をして歩き、いろんな人に挨拶をして、しこたま郵便物を捌いてはたまにけらけら笑ったりしている。3日目にして既に、ここで働くことにしてよかったと思っている。貴重な思春期を生徒会役員の事務作業とインターネットに費やして過ごしてきてしまったお陰で、ワードやエクセルやタイピングで不便なことは何ひとつなく、ファイリングやコピーも仕事が早いと褒められる。「わたしにできることなら何でも任せてください!定時までにこなすので!」とおどけると、「すんげ〜えくぼ」と笑われた。こんなに楽しくていいのだろうか。上司はみな賢さによって明るく優しいし、室内はあたたかいし、お腹がなりそうになったらチョコレートをひとかけ舐めても咎められない。もちろん身体は疲れるけれどサラダを売っていた頃よりもましだし、何ひとつ嫌なことがない。新社会人はもっと鬱になるべきであるような気がするけれど、研修もないしフルタイムのアルバイトのようなものなので、こんなものか…

 

とはいえ、臨時職員という名前がすべてを物語っている。わたしのこの春は臨時的に発生したものだし、いまこの選択の余地のあるつかのまの時間が人生における臨時の事態だ。臨時のままではいけない。なにもかも。開運橋を歩きながら東横インのネオンを跳ね返す水面を見下ろし、東京で暮らしても盛岡で暮らしてもわたしは人生を全肯定してあげられると確信した。だからこそわたしは迷っているし、このまま決めなければならないデッドラインが訪れるまでに、わたしに決定的な、絶対的な理由は現れないだろう。全部わたしが決めていいし、決めなければならないし、決めたものを絶対的にしなければならない。そしてわたしはこの葛藤を、似たような焼き直しでわたしは何度も日記に綴るにちがいない。

 

桜の枝かポピーを買いたかったのにお財布に500円しかなかった。諦めてスナップエンドウと新じゃがを買って帰宅。

 

電車の中で昨晩クレイグとskypeをしたことを思い返した。何もかも嫌になってすべてを投げ出してからも、半年間クレイグはめげずにわたしにメッセージをくれた。ほんとうにありがとう、大学でいちばんの恩師だよ。本が出版されると報告するとアホみたいによろこんでくれた。外国人が歓喜で暴れるGIFを思い浮かべながら、wow! oh! my...!と言うのを聞いていた。it's my dream... now, it was my dream.と言いなおすと、クレイグは感嘆のため息をついた。「I knew that you are talented.」。I was aware of it before I was born.と返したかったのに、英語が浮かばなかったので「でしょ」と日本語で言って、笑って通話を切った。