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3月7日

「そんなの几帳面な家出じゃん」と言われて、人聞きわるいんですけど…と怒ったけれどかなり言い得て妙だった。実家に鍵をかけたのが木曜で、今日が火曜。用意周到なる几帳面な家出。おもしろいんでメモっていいすか?と言ってiPhoneに書き残した。

 

盛岡東京間をいちいち仙台にバウンドして一泊するのは結構あほらしい。乗り継ぎの方がバスは安いし少しでも多くの友人と会いたいと思ってしまう。さ来週も行くのに、仙台。まだ懐かしいとか離れがたいという気持ちは沸き起こらなかった。あ〜、仙台ですね。という。ゴントランシェリエの平たいクロワッサンを食べる時いつも蛹のことを思ってしまう。クロワッサンと地層の句を詠んだのは2年前。

 

 

高速バスに乗ることを後ろめたく思いたくないから、バスで、と言った時、大変だねってあんまり言われたくない。大変なのはその通りだけど。もちろんいまは新幹線に乗れるだけのお金の余裕はないので、バスで大変だねと言われることがお金がなくて苦労してるんだね、と読み変えて薄暗い気持ちになるというのはある。でもそれだけのお金があるときもわたしはバスに乗ってしまう。移動が好きだからなるべくゆっくり移動したい。身体がちいさいおかげか、バスで眠ることに苦労しないしそもそもわたしはどこでも眠ることができる。乗車中はこうして日記を書いたり短歌を詠んだりするし、目的地によって聴く曲も決めている。サービスエリアで鶺鴒を眺めるのも、ばかみたいに広いトイレの個室も好きだ。移動中しかできない種類の集中があって、移動中に沸き立つ竜巻がある。

 

収録や取材や講演会のために先方がお金を出してくれたときと葬式のために至急実家へ行ったときくらいしか新幹線に乗ったことがない。新幹線に乗るとびっくりしているうちに目的地に着いてしまう。これがタイムイズマネー…とせつせつ思い、声に出してそう言いたくなる。タイムイズマネー。きもちが運ばれていく身体に追いつかない。泉中央から台原にいくくらいの気持ちで八重洲に着いてしまう。あっけらかんと。

 

500km。好きな人はわたしとの距離をいつもそう呼ぶ。呪術のように、あるいは病名を滔々と読み上げる医者のように。時速120kmの乗り物なら、時速80kmの乗り物なら。つまらない。たしかに日本はちいさい。しかしこの国の何処へでもいくためにはお金か体力がいる。そして金縛りのような後ろめたい文化がどこにでもある。わたしが一番輝ける場所はどこだ。そもそもう輝くことなんかできないんじゃないか。

 

帰宅してすぐに眠ってしまった。仕事を終えたわたしの真面目で明るい母は当たり前のような顔で5泊も外泊した娘に「どうしてもっと事前に言わないの」とも「髪切ったのね」とも言って寄越さなかった。